土壌病害に犯されたモチノキの古木

モチノキ (モチノキ科、モチノキ属)

形状寸法等: 樹高9m、幹周2.9m、枝張E6m、W8.5m、S7m、N7.5m
作業内容: 土壌病害治療、樹勢回復処置、養生処置

概況

市街地にある神社境内のモチノキの古木で、市指定の保存樹林の一部です。

樹齢500年以上(解説板より引用。)の堂々たる幹周りのモチノキですが、近年梢端より枯れはじめ現在は主幹上部が大きく欠損しています。

7年ほど前に一度治療暦があるようで、周辺土壌の大規模な入れ替えおよび主幹欠損部の外科処置等大がかりな処置がなされたようです。

一時は樹勢が戻りかけたそうですが、また枯れ下がりが進行し、現在残された梢端部は枝枯れも多く、全体に葉量も少ない。人止め柵が小さくまた土壌の固結化が顕著であったので、初見時には人および車輌による踏圧害が主要因と判断。・・・

しかし2ヶ月後の再調査時に土壌病害の一種である「白紋羽病」の子実体を株まわりの表土に視認。治療方針の修正および病害への対応にせまられました。

(以下、調査報告書より抜粋)


総合診断


周辺環境の影響

東~南側および北西に建物がある。特に東側にムクノキの大木があり若干被圧を受けているものの日照条件は良い。

根系・根元土壌の状況

樹木の周辺は豆砂利が敷き詰められ自由に通行ができる状況であり、人と車両による踏圧害を受けている。人止め柵があるものの樹木の大きさに比べて狭小すぎる。
地下部の根系は土壌調査の結果、表層部(約10cm)の砂利混ざりの層内に根系が集中しており、その下部層にはほとんど根系が見られない。下部層の黄褐色砂質土は以前の治療時に投入された客土と推察されるが、排水性は悪くないものの化学的に問題があるようで肥料分が少ない。
また表層部の砂利混ざりの黒色土には細根が網目状に絡み合っているものの生姜状に節くれているものが多い。モチノキは本来深根性の樹木でもあり根系の分布状況としては極めて不健全である。
なお、表層部に根が集まっていることから特に夏季に乾燥害の影響を受けやすいので注意が必要である。
また、樹木にとって特に危機的なことは、根元周辺に「白紋羽病」の子実体が広範囲に見られることである。根が犯されることから葉の黄変や萎ちょうが現れ、防除が手遅れになると枯死することが多い危険な病害である。

大枝・幹の状況

数年前に枯れ下がりにより主幹を欠損している。(昭和43年時の樹高12.5m(解説板より引用。)、現在の樹高9m)
主幹を欠損した後も腐朽は進行しているようであり、現在、幹最上部から分岐している大枝も枝先から枯れ下がりはじめており、樹勢の衰えが顕著である。

枝葉の状況

上部の枝先が枯れ下がるとともに、全体に黄変、落葉が見られ、葉も小さい。
樹木の大きさに比べ全体の葉量も少ない。カイガラムシの発生。

総合判定

衰退の根本的な原因は土壌と踏圧害にあると思われるが、白紋羽病は治療が困難な病害でもあり、まずは数年をかけて病害を克服することが最優先である。
その後徐々に土壌の改善、発根促進をはかることで樹勢の回復をはかることになる。


処方箋 (および治療処置作業)


周辺環境の整備

将来的には樹木周辺にある程度広範囲に人止め柵を設ける必要がある。
取り急ぎ病害治療を優先するものの、治療範囲は人止めをして養生する。

病害対策

子実体の見られた範囲を中心に根を掘り出し、羅病した根を丁寧に切除し、薬剤にて消毒する。切除した根および掘り出した土壌は次の感染源にもなるので場外に持ち出して処分し、新しい土壌に入れ替える。また、併せて周辺部にも薬剤を灌注する。
病害の克服には数年を要する。症状を見ながら対応する必要がある。

発根促進

以前に投入された客土にも課題があるようなので、病害克服後に土壌改良を進めていく。
病害の治療に伴い、場合によっては半分程度の根系を失う可能性もある。発根を促すためにも病害の及んでいない根域には活力剤を高圧にて土壌灌注をおこない併せて土壌の膨軟化をはかる。
なお、根系の多くが表層部に集中しているので、夏季の乾燥時には表土への灌水に配慮する必要がある。

樹冠部の処置

剪定は当分の間おこなわないが、安全および景観のために枯枝等は除去しても良い。
樹勢が弱っているので害虫もつきやすい。その都度薬剤散布をする。

特記事項

白紋羽病は治療の難しい土壌病害で、果樹園などの生産緑地では他の樹木への感染を避けるために伐根、焼却処分されることもある。
当該樹木は保存木でもありできるかぎりの回復処置をおこなうが、おそらく発生後数年を経過しており病害がかなり進行しているものと思われる。
治療は根系を切除するため樹木にとってはかなりのダメージになる。どこまで樹勢が回復するか予断を許さない状況である。

保全計画

※年間予算が限られているため、予算範囲内で優先順位に応じた処置となる。
[ 緊急項目 ] ・・・病害治療の優先(数年を要する。)
1 羅病域の根系切除、消毒、土壌入れ替え。
2 羅病域まわりの薬剤灌注。
3 羅病域外(健全域)の活力剤灌注。
4 治療した範囲の養生、仮囲い。
[ 中・長期項目 ] ・・・病害克服後の樹勢回復処置
1 土壌改良による発根促進、根系の誘導。(部分的に徐々に進める。)
2 人止め柵の設置。
3 主幹欠損部の処置。
※具体的な樹勢回復処置は回復状況等をみて改めて立案する。

 


(樹木医、樹木診断・治療、大阪)

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