樹木医からのお願い・・・枝を切るのは慎重に

あなたの大切な樹木、幹が腐っていませんか?

あなたは樹木の剪定をしたことがありますか?

本格的な剪定じゃなくても、伸びすぎて邪魔になった枝をノコギリで切り落としたことぐらいはあるかもしれません・・・・
私たちは、「邪魔だ・・・」とか「伸び放題で見苦しい・・・」などの理由で、平気で樹木を切ってしまうことが多いものです。また、木はどんなに切ってもいくらでも枝が吹いてくると安易に思い込んでいたりします。
でも実は「枝を切る」という行為は、樹木そのものを枯らしてしまうこともある「危険な行為」であることも知っておかねばなりません。

樹木にとって「枝葉」はエネルギーを生産(光合成)してくれる重要な部分です。

これを大量にとってしまうと、確実に木を弱らせ、病虫害に対する抵抗性を著しく弱めてしまいます。
よく、強剪定したあとに幹や大枝から勢いよく「徒長枝」が伸びてきますが、それは決して樹勢が強くなったのではなく、葉の減少に危機感を持った樹木が樹体内の「貯え」を使って慌てて葉を出している姿なのです。
無理な強剪定を頻繁に繰り返していると、樹木はいずれ貯えを使い果たし確実に衰弱していきます。

また、枝を切り落とす位置も大変重要です。

間違った位置で枝を切ってしまうと、そこから樹木を腐らせる「腐朽菌(キノコ類)」が侵入し、やがて幹の中が空洞になって倒木・枯死という大きな不安を抱え込んでしまうことになります・・・

 

では、正しい剪定とはどんなものでしょうか?

(ここでは、正しい剪定の位置(切る位置)のお話をします。)

正しい剪定の位置を知る前に、まず樹木の構造とりわけ「枝と幹がつながっている部分の構造」、そして「腐朽に対する樹木の防御機能」を知っておきましょう。

枝は発生した時点から幹に囲まれながら肥大成長をします。幹と枝の細胞組織はつながってはいますが構造的には別のもので、常に幹の組織が枝を支えるように張り出しているのです。
よく枝の付け根の下部にふくらんだ部分(ブランチカラー)が現れますが、これはあくまで幹の細胞が枝を覆って部分であることを認識して下さい。これに傷をつけるということは、枝ではなく幹に傷をつけていることになります。
また、枝の付け根の上部には樹皮がぶつかり合ったようなシワが現れます(バークリッジ)。これが枝と幹の境界部分を示しています。
また、枝の基部には「保護帯」という腐朽菌にたいする防御層があり、腐朽が枝から幹内部に侵入するのを防ぐ役割を担っています。でも、何らかの原因でこの「保護帯」が破られると腐朽は幹内部へ侵入してしまい後に大きな問題をもたらします。
ですから、剪定する際にはこの「保護帯」を無視した方法をとってはいけないのです。
枝が自然に枯れた場合、健全な樹木であればこの枝と幹の境(保護帯)で枯れ止まります。枝を切る場合はこの枝と幹の境で切ることが大切なポイントなのです。
剪定位置①で切る方法を「フラッシュカット」といいます。
一見すると切り口もスッキリとして良いように思えます。
でもここで切るということは幹の組織まで切り取ることになり、傷口も大きくなってなかなかふさぐことができず、病原菌も侵入しやすくなります。
(正しい剪定方法が確立される以前には、切った後の見栄えが重視されて、フラッシュカットが一般的になされていました。本職の植木職でも未だにこういう切り方をする人がありますがマネをしないで下さい・・・)

一方、③で切って「切り残し」ができると、幹の組織が傷口をふさごうとしても枝の残りが邪魔をしてなかなかふさぐことができません。この場合、樹勢が強ければ腐朽菌を「保護帯」で防御できますが、樹木が弱っていると突破され幹の中まで腐れが広がっていきます。

 

②で切るのが最も良い方法です。

この位置で剪定されると、巻き込みは切口の全周から始まりやがて切口は閉じられます。

ただし、この場合でも決して完璧というわけではありません。樹木自体が弱っていると病原菌の侵入に抵抗できないこともあります。・・・

生きた枝を切られるというのは、樹木にとってはとてもつらいことなのです。樹勢が弱っている木であればあるほど、1本の枝も大切にする必要があるのです。
正しい知識を持って、できるだけ「傷」を最小限にとどめる剪定をおこないましょう。


樹木医工房、大阪

関連記事一覧