悪条件で移植されたクスノキの異変・・・樹皮の剥がれ
ある店舗のオーナーさまより、移植したクスノキの調子が良くないので見てほしいとのことで伺いました。
樹高15mほどの立派なクスノキですが、半年ほど前に店舗の増築に伴い同じ敷地内で10mほど移動させたということです。
移動距離は短かったのですが、請け負った造園業者さんも木のボリュウムや掘り取り根鉢が大き過ぎたようで、重機で吊るのも一苦労していたそうです。・・・
見せていただくと、冬場とはいえ確かに葉数も少なく、一部枯枝もあって活力がないようです。・・・
さらに、幹や枝の所々に緑化テープで「幹巻き」がされているのですが、どうにも不自然な違和感があって念のため剥がしてみました。
幹巻きを剥がしてみると、内側の樹皮も大きく剥離して浮き上がっています。
しかもよく調べると結構な箇所と面積の樹皮が剥離して枯れてしまっているようです。・・・
どうやら重機で吊りこむときに、吊り具(帯び)が幹を圧迫して樹皮を剥がしてしまったようで、造園作業ではありがちなミスではあるのですが、これほど多くの傷は見たことがなくしばらく呆然としてしまいました。・・・
樹皮のすぐ内側には形成層(生きた生長細胞)があって養水分の通り道になっていますので、これを大きく傷つけてしまうと樹木へのダメージもかなりあったと思われます。
また、樹皮の剥がれたところから腐朽が進行すると、将来的に大きな問題を抱え込んでしまいそうです。・・・
結果的に剥離してしまったのは仕方なかったのかもしれませんが、その傷を隠すようにそのまま幹巻きだけで放置するのは賛同できません。・・・
剥離して枯れ込んだ樹皮そのものは元通りにはなりませんので丁寧に取り除き、カルス(癒合組織)が今後スムースに巻き込んでいけるように想定しながら簡単な外科処置を行いました。そして取り除いた開口部には殺菌癒合剤を丁寧に塗布しました。
また冬季の寒風に晒されるのを防ぐため、念のため再度丁寧に幹巻きをして養生しました。
この大きな傷の数々が完全に癒えるのに何年かかるのだろうか、それまで木が持つのだろうかと思うと少し暗澹たる思いがします。・・・
なお、念のため根元まわりを試掘してみますと、土に混ざってさまざまな異物(ゴミなど)が出てきて少し異臭もします。・・・
よく聞くと、移植した場所はもともとゴミを燃やしたり埋め立てたりしたところだそうで、ゴミはある程度取り除いたそうですが、そのまま既存土を土壌改良して移植したようです。・・・
根の切除などの移植によるストレスに加え、樹皮の剥離や悪い土壌など悪条件が重なってしまっているようです。・・・
広範囲に土壌を入れ替えるのは手間やコストもかかりますが、せめて根元まわりだけでも良土に入れ替えるべきを提案し、近々施工の予定です。
オーナーさまにとっても思い入れのある木のようで、何とか元気を取り戻してほしいものです。・・・
(樹木医、樹木診断・治療、大阪)