樹木周辺の嵩上げ工法・・・樹木を枯らさないために

樹木周辺の嵩上げ工法

できればしたくない「覆土」・・・

樹木の根元周りに土で嵩上げ(覆土)することの危険性は別稿に記しているとおりです。

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▶▶ 樹木医からのお願い・・・覆土にご用心!

しかし、現実にはどうしても覆土せざるを得ない場合があります。・・・

とある私有地内にて古民家の改修を含めた周辺の整備事業が行われています。
ここでは敷地奥への工事中の搬入路および整備後の管理用通路として道路の造成が不可欠なのですが、この道路途上に「エノキ」の大木がありこれの扱いが当初より懸念されていました。
この「エノキ」は古民家建物のすぐ脇に生えた「実生木」で、大小2本の幹からなる合体木のようです。・・・
エノキといえば一般的に庭木としては特に貴重な樹種でもなく、通常ならあっさりと伐採されてしまいそうです。しかし景観を重視されているオーナーは、古民家に寄り添うように聳えるこのエノキを何としても残したいという思いを強くお持ちでした。

 

樹木の位置的には道路との境界線上にくるのでギリギリかわせそうです。・・・

 

しかし、地盤高の変化は避けられません。高低差の激しい敷地に緩傾斜の道路を通すには切土および盛土によって大規模に造成する必要があり、このエノキは最下部の石垣下に生えているので根元周りを最大100㎝程度埋める必要があるのです。
根元周りがすべて覆土されるわけではありませんが、立地上、覆土部分に大部分の根系が集中しているものと想定されますので、このまま安易に埋めれば遅くとも数年以内には必ず「枯れ」となって現れてくると思われます。・・・

 

ポイントは通気と排水の確保・・・

関係者にていくつもの提案がなされ、鉄骨で橋を組んでエノキ周りを跨ぐ案などもありましたがあまり現実的ではなく、結局「パーライト」を用いた嵩上げ工法が採用されました。生き物である以上必ず枯れないとは言い切れないためオーナーも当初は躊躇されましたが、充分実績のある工法であることをご説明し、コスト等を考えても最も現実的な工法と判断されました。・・・

この工法のポイントは旧地表面の土壌の通気性の確保と排水をしっかりとることです。

通気性の確保には、黒曜石系の大粒パーライトを樹冠投影面積以上に敷き詰めます(厚さ150~200㎜)。さらに幹にはパーライトを使った「酸素管」を巻き付けて空気の通り道を確保し、周辺にも数ヵ所酸素管を立ち上げてできるだけ通気を確保します。
また、排水管、透水管を埋設し、敷き詰めたパーライト部分に水が滞らないようにしました。・・・

一見なにげない処置のようですが・・・

このような養生をしてから慎重に土を盛りました。小型トラックの進入を想定した管理用の通路ですので、砕石敷きで仕上げて転圧をかけています。・・・
一見なにげない処置のようにも見えるのですが、枯れるリスクを大幅に軽減できると思います。生き物ですから100%はありえないのですが、限られた条件のなかで慎重に充分な処置を心がけました。

 

樹木の代弁者として少しでも人と樹木との折り合いをつけていければと願います。・・・

どうかこの景観が末永く残りますように。・・・


(樹木医、樹木診断・治療、大阪)

追記:覆土処置後数年経ちますが、若干、葉の萎縮があるものの旺盛に生育しています。

 

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