衰弱した古刹寺院の銘木アカマツ
樹種名: アカマツ (マツ科、マツ属)
形状寸法等: 樹高4.5m、幹周2.6m、枝張E7m、W9m、S11m、N0m
作業内容: 覆土除去、樹勢回復処置、養生処置
概況
旧街道沿いにある古刹寺院内のアカマツの古木です。
樹齢約500年(住職談)の堂々たる幹周りのアカマツです。主幹が欠損していて樹高は低いのですが、大枝が横方向に扇状に大きく仕立てられており、特異な樹形、景観を形成しています。
過去に外科の治療歴があるようで、幹および枝の腐朽空洞部にコンクリートが充填されています。
一昨年あたりから枯れ枝が出たり葉が黄変しはじめるようになり、ハダニが発生していたことから何度も薬剤を散布したものの改善が見られなかったとのことです。
調査の結果、根元周りに広範囲に不自然な盛り土が視認できたので試掘したところ、覆土(厚み10~15㎝)がされているようです。(覆土のなかにはほとんど根が伸長していません。・・・)
根が一部露出しているのが気がかりで、良かれと判断して数年前より数度にわたって覆土をされたようです。・・・
(関連記事)
▶▶ 樹木医からのお願い・・・覆土にご用心!
また、周辺の参道付近にも多くの根系が伸長していましたが、人や車による顕著な踏圧害が見られました。
また、同じ境内にあるクロマツのうち一本が、葉が褐変して激しく落葉、枯れ下がりをしており、併せて処置を行いました。
こちらは駐車場の舗装工事に伴い根系を切除されたことで衰弱し始めたと思われます。劣悪な客土や養生によりそのダメージから回復できないまま急速に衰弱してきたようで、非常に重篤な症例です。
どちらも根の活性が急速に衰えているようです。
大きな樹冠を支えるだけの養水分の吸収能力が著しく低下しているところに夏季の天候不良が引き金となって衰弱が顕著になっており、早期の処置が望まれました。
(以下、調査報告書より抜粋)
アカマツ
総 合 診 断
〇周辺環境の影響
当該樹木は寺社境内に立地。東~北側に建物が近接。周辺を建物等に囲まれているものの日照条件は悪くない。
〇根系・根元土壌の状況
樹木の周辺は石敷きの参道に囲まれているものの、根元まわりは根域が広めに確保されている。根系は外へ広く伸長しているが参道付近は人や車両による踏圧害を受けて土壌が固結しており、根の活性を阻害している。また、根元まわりは過去に「覆土」が繰り返されたようであり、覆土と思われる表層部(約10~15cm)にはほとんど根系が見られない。
〇大枝・幹の状況
地上高2.7mにて主幹を欠損している。腐朽部の形状からおそらく強風等による幹折れが直接的な原因と思われ、幹折れ時に樹皮が地際まで大きく剥がれて開口し、腐朽が進行したものと推察される。枝は主幹欠損部より南方向を中心に扇状に水平に仕立てられ特異な形状をしているが、鋼管を多数用いて枝をうまく支持している。主幹および大枝の多くに腐朽、開口が見られるが、過去に外科処置(コンクリート充填)がされている。腐朽の進行具合は確認できない。
〇枝葉の状況
全体に葉が黄変している。一部の枝は完全に枯損している。ヤニ(樹液)も少なく、樹勢の衰えが顕著である。なお、夏以降の新芽には黄変していないものが見うけられる。
〇総合判定
根元まわりの覆土内に根系が見られないことから、覆土が当該樹木に障害になっていることは明らかである。過剰な覆土は既存の根系への酸素供給を妨げるので樹木へ致命的な影響を与えることが多く、枯死に至る事例も多く見受けられる。また、参道付近にも根系の多くが伸長しているが、参道まわりは踏圧による土壌の固結化が顕著で根の活性を阻害している。全体として根の活性が徐々に衰え、大きな樹冠を支えるだけの養水分の吸収能力が低下しているところに夏季の少雨乾燥期を中心に生理異常を起こしていたものと推察されます。樹勢が衰えると病虫害への抵抗力も低下しますので葉ダニ等の被害も顕著になってきます。病虫害の発生はあくまで二次的なもので、根本的には根系の環境を改善することが肝心です。葉の異変や枝の枯損はすでに衰弱の度合いが大きいことを示しており、早期の根本的な対応が必要です。
処 方 箋
〇周辺環境の整備
治療を効果的にするためにも樹木周辺にある程度広範囲に人止め柵を設ける必要がある。
〇土壌改良、発根促進
まず、覆土された土壌を丁寧に除去する。一部細根が露出する可能性もあるのでバーク堆肥にてマルチングして乾燥を防ぐようにする。つぼ穴の穿孔による部分的な改良により新たな発根を促す。また、土壌に樹木活力剤を灌注し併せて土壌の膨軟化をはかる。
〇樹冠部の処置
樹木活力剤を葉面散布し樹勢の回復を補う。また、剪定は一時的に控えるか弱剪定に留めるようにする。樹勢が弱っているので葉ダニ等害虫もつきやすい。被害が顕著であれば薬剤散布をする。
〇特記事項
治療の効果を維持するため、治療範囲をロープ等にて人止めする必要がある。全面を囲うことは困難であるが、支障のない範囲で人が土を踏まないような処置をする。
〇保全計画
[ 緊急項目 ] 3月
覆土の除去、土壌改良、活力剤土壌灌注、土壌膨軟化、活力剤葉面散布。
囲いの設置。
[ 中・長期項目 ]
経過観察、養生。回復状況をみて追加処置の検討および剪定等管理手法の検討。
クロマツ
総 合 診 断
〇周辺環境の影響
当該樹木は寺社境内に立地。北~西側に駐車場のアスファルト舗装、南~東に参道(裸地)。日照条件は良い。
〇根系・根元土壌の状況
現状では縁石に囲まれた植桝内に立地。舗装工事により根が切除されたことで衰弱しはじめたと思われる。アスファルト舗装を一部撤去して植桝を若干拡張したものの、下層に舗装の砕石基盤がそのまま残っていたり、投入された客土も植栽土壌として未熟であるなど、植栽基盤としては不適切である。根系は新たな土壌にはほとんど伸長していない。また、植桝内も踏圧で土壌が固結化している。
〇大枝・幹の状況
幹や大枝には目立った腐朽や傷はない。
〇枝葉の状況
全体に葉が褐変、落葉している。一部の枝は枯れはじめている。樹勢の衰えが著しく、放置すれば危険な状況である。
〇総合判定
舗装工事による根系切除のダメージから回復できないまま急速に衰弱してきていると思われます。植桝を若干拡張されたのは良かったですが、アスファルト舗装の砕石基盤がそのまま残っていたり、客土が未熟である、踏圧害があるなどさまざまな問題があり、現状では回復が見込めません。根の活性が急速に衰え、大きな樹冠を支えるだけの養水分の吸収能力が著しく低下しています。土壌の入れ替えや既存の根系の活性化等、早急な処置が望まれます。
処 方 箋
〇周辺環境の整備
治療を効果的にするためにも植桝内に入らぬよう人止め柵を設ける。
〇土壌改良、発根促進
まず、既存の客土および砕石基盤等を丁寧に除去する。良質な改良土を敷き込み、根を誘導する。根元まわりの既存土は、樹木活力剤を灌注し併せて土壌の膨軟化をはかる。
〇樹冠部の処置
樹木活力剤を葉面散布し樹勢の回復を補う。また、剪定は一時的に控えるか弱剪定に留めるようにする。樹勢が弱っているので葉ダニ等害虫もつきやすい。被害が顕著であれば薬剤散布をする。
〇特記事項
衰弱の度合いがかなり進行しているのでどこまで回復できるかは予断を許さないが、土壌の入れ替え、改良等により根系を活性化させることが何より急務である。た、治療の効果を維持するため、植桝内をロープ等にて人止めする必要がある。
〇保全計画
[ 緊急項目 ] 3月
客土、砕石基盤の除去。改良土の投入。活力剤土壌灌注、土壌膨軟化。活力剤葉面散布。
治療した範囲の養生、囲いの設置。
[ 中・長期項目 ]
経過観察、養生。回復状況をみて追加処置の検討および剪定等管理手法の検討。
(樹木医、樹木診断・治療、大阪)