間違った剪定で腐朽したソメイヨシノ・・・外科処置
ソメイヨシノ 腐朽部外科処置ほか
このソメイヨシノは事業所(工場)とオーナー自宅の間の狭隘な空間に植栽されていてあまり人が立ち入らない場所にあります。
まだ樹齢も若く、道路側から生垣越しに見える範囲では特に樹勢の衰えもなく問題を抱えているようには見えないのですが、実際には重篤な症例でした。
いつの間にか幹の下部に大きな腐朽、開口部があることに気づいたオーナーが枯死あるいは倒木を心配されて処置することとなった次第です。・・・
この樹木を観察・診断してみると、
二本立ちに分かれた幹が二本とも地上1メートルくらいのところで太枝を切除されているのですが、切り残しがあるため癒合組織が巻き込みきれずに腐朽が幹内部に深く進行しています。
うち1本は根元まで開口してしまっており、腐朽内部には「不定根」が数本見受けられました。
また、腐朽部のすぐ上には縦方向に長く樹皮の亀裂が見られます。
これはいわゆる「幹割れ」で、樹体を支える幹の強度が落ちたため、強風で樹冠が激しく揺れることで幹内部の材が縦方向に割れた跡と思われます。支柱などで補強しないと強風で突然幹折れする恐れがあります。
さらには、幹下部にはいわゆる「あて材」が形成されていました。
「あて材」とは人間でいえばチカラ瘤のようなものですが、樹木は物理的に弱い部分の「材」を自ら太らせて支持力を補強しようとするのです。
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総合的に見て樹木自体はまだ樹勢を保っているといえますが、致命的な箇所に腐朽があり、さまざまな形で「支持力の不足」を物語っているようです。・・・
治療方法としては、
ずい分以前はむやみに腐朽部を削り取ってコンクリートやウレタンなどを詰め込んだりしていました。
しかし、腐朽部を深く削り取ると樹木が菌の広がりを防ぐために作った「防御層」を傷つけてしまい、余計に腐朽部が広がってしまう恐れがあるためむやみな外科処置はほとんど行わないようになりました。
またウレタンやコンクリートを充填しても木の強度を補強することはできないし、木を元気にすることもできない。・・・
それよりも樹勢を回復させて木を元気にし、腐朽菌に対する抵抗力をつける(防御層の壁で腐朽部を閉じ込める)ようにするのが現在の治療法の主流といえます。
今回の処置としては、大掛かりな外科処置はしませんが、切り残した部分(枝)の切除、癒合組織のスムースな巻き込みを想定した最小限の削り込み、そして切口には癒合剤の塗布を行いました。
さらには支柱による樹体の支持、および活力剤の土壌灌注と一部土壌改良を行いました。
この腐朽は別稿でも紹介しているとおり「間違った剪定方法」が原因と推察されます。
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▶▶ 樹木医からのお願い・・・枝を切るのは慎重に
切除部から腐朽が急速に広がり、いわゆる「危険木」となってしまった典型的な事例といえます。
剪定は植木職にまかせていたとのことですが、不注意や無理解など人為的な要因で樹木が衰弱しているのを見るととても残念な気がします。・・・
(樹木医、樹木診断・治療、大阪)
(追記) 5年後(放任)の状況・・・癒合組織が巻き込んできています。